EVはバッテリー製造時のCO₂排出量が大きく、ガソリン車より環境負荷が高いのではないか?
「EVは走行中こそCO₂を出さないが、バッテリーをつくるときに大量のCO₂を排出するので、トータルではガソリン車と変わらない、むしろ環境負荷が高い」——この主張はEV批判のなかでもっとも根強いもののひとつです。そして部分的には正しい指摘です。EVは製造段階、とくにバッテリー生産で、ガソリン車より多くのCO₂を排出します。しかし判断すべきは製造時点の一瞬ではなく、製造から廃棄までの生涯全体(ライフサイクル)で出す総量です。
結論を先に述べると、(1) EVは製造時の排出がガソリン車より約4割多いが、(2) その差は走り始めてから約1〜2年(およそ1.7万km)で取り返され、(3) 生涯全体ではEVのCO₂はガソリン車より7割以上少ない——というのが最新の科学的知見です。これをライフサイクルアセスメント(LCA)という手法で順に見ていきます。
1. LCAとは何か:一瞬ではなく生涯で測る
環境負荷を正しく比べるには、製造・使用・廃棄までを通算する必要があります。この考え方がLCA(ライフサイクルアセスメント)です。自動車の場合、大きく分けて「製造段階(車体・電池の生産)」と「使用段階(燃料や電気の消費)」で排出が発生します。
ガソリン車は製造段階の排出は比較的小さいものの、走るたびにガソリンを燃やして使用段階でCO₂を出し続けます。EVは逆で、製造段階(とくに電池生産)で排出が先に発生しますが、走行中の排出は使う電気の中身しだいです。したがって「製造時だけ」を切り取ればEVが不利に見え、「生涯全体」で見るとEVが有利になります。どちらを見るかで結論が正反対になるため、LCAで通算することが公正な比較の前提になります。
2. 製造時の差は約4割、しかし走れば取り返せる
では具体的な数字です。国際的に信頼される調査機関ICCT(国際クリーン交通委員会)が2025年に公表した欧州の最新分析によれば、EV(バッテリー式)の製造段階の排出はガソリン車より約40%多いとされています[1]。これは主にバッテリー生産に由来し、EV批判が指摘する通りの事実です。
重要なのはここからです。同じ分析は、この製造時の「借金」が、走行を始めてから約1.7万km(およそ1〜2年の走行)で完済されると示しています[1]。EVは走行中の排出が小さいため、走れば走るほどガソリン車との差を詰め、比較的早い段階で追い越します。日本の平均的な年間走行距離(1万km前後)なら、2年ほどで製造時の不利を帳消しにできる計算です。
そして生涯全体では差が大きく開きます。ICCTによれば、欧州で新車として登録されたEVの生涯排出量は63 gCO₂e/kmで、ガソリン車の235 gCO₂e/kmと比べて73%少ないという結果です[1]。再生可能エネルギー100%の電気で充電すれば、削減率は最大78%に達します[1]。「製造時に多く出す」ことは事実でも、「生涯で見れば圧倒的にクリーン」という結論は揺らぎません。
3. カギは「電気の中身」:日本の電源構成という条件
ただし、この結論には条件があります。EVの使用段階の排出は、充電に使う電気がどうつくられたかに左右されるからです。石炭火力が多い電源構成では、走行時の排出が増えてEVの優位が縮みます。
実際、石炭火力の比率が高かった時期の中国のデータでは、CO₂の損益分岐点が約12.7万km(約7.9万マイル)まで伸びるとの推計もありました[1]。逆に、電気のほぼすべてを水力でまかなうノルウェーでは、損益分岐点はきわめて短くなります。つまりEVの環境性能は、その国・地域の電源構成とともに変わるのです。
日本は火力発電の比率が依然として高いため、EVの走行時排出は再エネ大国より大きくなります。この点は正直に認めるべきです。しかし二つの理由でEVはなお有利です。
第一に、日本の平均的な電源構成でも、LCA全体ではEVがガソリン車を下回るという分析が主流です。
第二に、電源は年々脱炭素化していくという時間軸です。ガソリン車は生涯にわたり燃料を燃やし続けますが、EVは電源が再エネ化するほど、同じ車が乗るほどにクリーンになっていきます。ICCTが「EVは予想より速くクリーンになっている」と評するのは、この電源側の改善速度が織り込まれているためです[1]。
4. 残る論点:採掘・製造地・リサイクル
環境負荷はCO₂だけではありません。誠実に、他の論点にも触れておきます。バッテリーの原料となるリチウムやコバルトの採掘にともなう環境破壊・水資源への影響・労働問題は、CO₂とは別に問われるべき課題です(この点は別のFAQで詳述します)。また、電池の製造地の電源構成が排出量を左右するため、脱炭素電力でつくられた電池ほど製造時の排出は小さくなります。
これらの課題への答えのひとつが、使用済み電池を資源として回収するリサイクルです。回収した金属を新しい電池に回す循環(クローズドループ)が確立すれば、採掘量と製造時排出の両方を減らせます。すでに欧州や中国では電池リサイクルの制度整備と産業化が進んでおり、「つくって終わり」ではなく「回して使う」構造への移行が始まっています。
5. 今後の展望:差はさらに開く方向
技術と社会の両面から、EVとガソリン車の環境負荷の差は今後さらに開いていくと見込まれます。第一に、電池生産の脱炭素化とエネルギー密度向上で、製造時の排出そのものが縮小します。第二に、各国の電源が再エネ化することで、使用段階の排出が下がり続けます。第三に、リサイクルの普及で採掘・製造の負荷が減ります。ガソリン車にはこうした「乗るほど・時代が進むほどクリーンになる」経路がありません。
まとめると、「EVはバッテリー製造でCO₂を多く出す」という指摘は事実ですが、それは物語の前半だけを見た評価です。生涯全体で通算すれば、EVの排出はガソリン車より7割以上少なく、その差は電源の脱炭素化とともにさらに拡大します。製造時の一瞬ではなく、生涯というものさしで測ることが、この問いに答える鍵です。
まとめ
EVは製造段階の排出がガソリン車より約40%多い。これは事実で、主因はバッテリー生産。
しかしその差は走行約1.7万km(1〜2年)で取り返され、生涯全体ではEVの排出は73%少ない(再エネ電力なら最大78%減)[1]。
EVの環境性能は電源構成しだいで変わる。日本は火力比率が高いが、それでもLCAでEVが有利、かつ電源脱炭素化で年々改善。
CO₂以外に採掘・製造地・リサイクルの論点が残るが、循環利用で緩和が進む。
ガソリン車と違い、EVは乗るほど・時代が進むほどクリーンになる。
判断のものさしは「製造時の一瞬」ではなく「製造から廃棄までの生涯全体」です。その視点に立てば、EVの環境優位は明確です。
参考文献・データ出典
[1]: International Council on Clean Transportation (ICCT). (2025, July). Life-cycle greenhouse gas emissions from passenger cars in the European Union: A 2025 update and key factors to consider. https://theicct.org/publication/electric-cars-life-cycle-analysis-emissions-europe-jul25/ / ICCT. (2025). Electric cars are the cleanest—and getting cleaner faster than expected. https://theicct.org/pr-electric-cars-getting-cleaner-faster/ (製造時排出+40%、損益分岐点約1.7万km、生涯排出BEV 63 / ガソリン235 gCO₂e/km、73%削減・再エネ時78%削減)