EVのためのリチウムやコバルトを採掘することで生じる環境破壊・人権問題は大丈夫か?

「EVはクリーンだと言うけれど、その電池をつくるためにアフリカで子どもが危険な労働を強いられ、南米では水資源が枯渇している。それはガソリン車以上に罪深いのではないか」——この批判は、EVの環境イメージに対するもっとも鋭い問いかけです。そして、これは軽視してはならない事実を含んでいます。コバルトやリチウムの採掘には、深刻な人権侵害と環境負荷が現実に存在します。EVを推す立場であっても、この問題を正面から認めることが誠実さの出発点です。

そのうえで結論を述べると、(1) コバルト・リチウム採掘の人権・環境問題は実在する深刻な課題である、(2) しかし技術面ではコバルトを使わない電池への移行が進み、(3) 制度面ではサプライチェーンの追跡と責任ある調達、そして採掘量そのものを減らすリサイクルが解決の道筋になっている——という三層で整理できます。順に見ていきます。

1. 直視すべき現実:コバルトとリチウムの影

まず問題の実態を正確に押さえます。コバルトは世界埋蔵量の約8割がコンゴ民主共和国(DRC)に集中し、その採掘の一部は「手掘り(零細・非正規採掘)」でおこなわれています。米労働省の推計では、DRCのコバルト鉱山で少なくとも2万5,000人の子どもが働いているとされ、危険な労働環境や強制労働が国際的に問題視されてきました[1]。Amnesty International(アムネスティ・インターナショナル)は2016年の報告書で、児童労働が疑われる鉱山のコバルトが大手ブランドの電池に流れ込んでいる可能性を指摘しています[1]。

リチウムには別の問題があります。南米のチリ・アルゼンチンなどの塩湖(サラール)からリチウムを取り出す方式は、乾燥地で大量の水を使うため、地域の水資源や先住民の生活に影響を与えるおそれが指摘されています。採掘は、CO₂とは別の次元で、人権と地域環境に負荷をかけ得るのです。この点をごまかしてEVを「無条件にクリーン」と語ることはできません。

2. 技術で減らす:コバルトを使わない電池への移行

では、どう解決へ向かうのか。第一の道筋は技術です。もっとも問題の多いコバルトについては、コバルトを使わない電池への移行が急速に進んでいます。

その中心がLFP(リン酸鉄リチウム)電池です。LFPはコバルトもニッケルも使わず、鉄とリンを主原料とするため、コバルト採掘の人権問題を原理的に回避できます。エネルギー密度がやや低いという弱点はありますが、改良が進み、いまや中国を中心に世界のEV電池の主力の一角を占めるまでになりました。さらに、リチウムすら使わないナトリウムイオン電池の実用化も始まっており、ありふれた資源で電池をつくる方向へ技術がシフトしています。

つまり「EV=コバルト依存」という前提自体が、技術の進化で崩れつつあります。問題のある資源を「よりよく採る」だけでなく、「そもそも使わない」という解決が現実に進んでいるのです。

3. 制度で正す:追跡可能性と責任ある調達

第二の道筋は制度です。採掘の現場を放置せず、どこで誰がどう採ったかを追跡し、問題のある調達を排除する仕組みが整えられつつあります。

前述のEU電池規則は、2027年から電池ごとの素材・産地・履歴を記録するバッテリーパスポートを義務づけ、サプライチェーンのデューデリジェンス(人権・環境への注意義務)を求めています。これにより「トレースできないコバルトは使えない」という圧力が生まれます。自動車メーカー側でも、TeslaやBMWなどが調達先の透明化や責任ある調達の方針を掲げています。進捗は道半ばで、依然として供給網を完全には追跡できないという企業側の課題も残りますが[1]、方向としては「見えない調達」から「見える調達」への転換が進んでいます。責任ある鉱物調達の国際イニシアチブや認証の枠組みも、この動きを後押ししています。

4. 採掘量そのものを減らす:リサイクルという答え

第三の、そしてもっとも本質的な道筋が、採掘量そのものを減らすことです。使用済み電池から金属を回収して新しい電池に戻すリサイクルが広がれば、新たに掘り出す量を構造的に減らせます。

リサイクルではコバルトやニッケルを9割以上回収でき、この資源循環が確立するほど、問題のある新規採掘への依存は下がります。EVが普及して電池のストックが積み上がるほど、将来の回収原料も増えるため、長期的には「掘る」から「回す」への移行が進みます。採掘問題は、リサイクルの拡大によって時間とともに縮小していく構造にあるのです。

5. 公平な比較のために:化石燃料の採掘も問う

最後に、比較の公平性について述べておきます。採掘の負荷を問うなら、EVの電池だけでなく、ガソリン車が生涯にわたり消費する化石燃料の採掘も同じ土俵で問わなければフェアではありません。石油の掘削・輸送・精製にも環境破壊や地政学的な負荷があり、産油地域での人権・紛争の問題も長く指摘されてきました。しかも化石燃料は燃やせば消えてしまい、回収も再利用もできません。

これに対しEVの電池は、一度採った資源を再利用・リサイクルで繰り返し使えるという決定的な違いがあります。採掘は「入口の一度きり」で、その後は循環に乗せられるのです。もちろん、これはEVの採掘問題を免罪するものではありません。問題は現実に存在し、解決の努力を続ける責任があります。しかし「EVだけが採掘の罪を負う」という見方は一面的で、化石燃料側の採掘負荷と、EVの資源が循環し得るという構造の違いを踏まえて評価すべきです。

まとめると、リチウムやコバルトの採掘をめぐる環境・人権問題は実在する深刻な課題であり、直視が必要です。同時に、コバルトフリー電池への移行、サプライチェーンの追跡と責任ある調達、そしてリサイクルによる採掘量の削減という三つの道筋が、この問題を着実に小さくしています。EVの倫理性は「問題がないふり」ではなく、「問題を認めて解いていく努力」によって担保されるべきものです。

まとめ

  • コバルト採掘の児童労働(DRCで推計2.5万人[1])やリチウム採掘の水資源問題は実在する深刻な課題。直視が必要。

  • 技術面:LFP電池やナトリウムイオン電池などコバルト・希少資源を使わない電池へ移行中。

  • 制度面:バッテリーパスポートとデューデリジェンスで「追跡できない調達」を排除。

  • 資源面:リサイクルで新規採掘への依存を構造的に削減。

  • 化石燃料の採掘も同じ土俵で問うべき。EVの資源は循環し得る点が決定的な違い。

「問題がない」のではなく、「問題を認めて解いている」——これがEVの採掘問題への誠実な答えです。

参考文献・データ出典

[1]: U.S. Department of Labor / Amnesty International 等の報告に基づく。CECC. From cobalt to cars: How China exploits child and forced labor in the Congo. https://www.cecc.gov/events/hearings/from-cobalt-to-cars-how-china-exploits-child-and-forced-labor-in-the-congo / UCL Bartlett. (2025). Driving on destruction: How EVs are exploiting Congo's mines. https://www.ucl.ac.uk/bartlett/news/2025/jul/blog-driving-destruction-how-evs-are-exploiting-congos-mines (DRCが世界コバルトの約8割、児童労働推計2.5万人、供給網追跡の課題)

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